瓶詰めの琥珀

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祖母が亡くなったのは、春の長雨が止んだ真夜中のことだった。 場所は、私と祖母が住む町で一番大きな病院の中にある、一番小さな個室だった。 最期の言葉は 「長いこと悪かったね」 そんな言葉だった。 祖母の最期を看取ろうと集まった親戚たちは、涙を流していた。 赤ん坊だった私を一人で育て上げ愛し続けた祖母への感動や、大人になってからも祖母の世話のために家を離れず、祖母の傍らに身を置いた私に対する労いの涙。 それを誘発するには、これ以上ない言葉のような気がした。 けれど、その真意を知っているので、私は泣きはしなかった。 ただ、祖母の大きく骨ばった手を握っていた。 「香寿(かず)ちゃん、おばあちゃん、綺麗にしてもらうから。手を離してあげて」 そう言われるまで、ずっと、その手を離さなかった。 ――そろそろ、ウグイスが鳴くねぇ。 ある年、こんな風に、春の雨が止んだ夜、祖母がぽつりと言ったのを思い出していた。
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