瓶詰めの琥珀

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祖母は、私に、友達を作ることを禁じた。 娘は幼い頃から交友関係が広かったそうだ。 碌でもない男と出会うに至った要因はそれだと、祖母は思い込んでいた。 災いは根源から絶やす。 祖母はそういう人だった。 禁じられたことに手を染めると、祖母は一言も口をきいてくれなかった。 例えば、保育園で同じクラスの子と遊んだことをうっかり口にしてしまった日や、その数年後、小学校で一番足の速い男の子のことを話題にしてしまった日などに、その罰は容赦なく課された。 泣いて謝っても、祖母は口を開くことなく、徹底的に私を無視して自室に引き篭もり、顔を出すこともなかった。 それは、祖母が「許そう」と思うその日まで、数ヶ月に及んだ。 しかし、言いつけさえ守っていれば、祖母はただただ優しかった。 私の頭を撫で、この世の何よりも可愛い、と微笑んでくれた。 眠れない夜には、小鍋で温めた牛乳に蜂蜜を入れたものを、一匙一匙、ふうふうと息を吹きかけて冷ましてから飲ませてくれた。 私は幼心に分かっていた。 この人以外に、こうして私を愛してくれる人など居ないのだと。ここに捨てられた私には、この人しかいない。 だから、祖母に無視をされることは、私にとっては何よりも恐ろしい罰だったのだ。 そのため、私は、人付合いを避けた。 誰とも視線を合わせず、俯き押し黙っていた。 さぞかし不気味な子供に見えたことだろう。 自ずと、私と関わろうとする者はいなくなった。 家に帰ると、祖母に頭を撫でてもらった。 祖母の手は白くて大きくて、コンバーユの匂いがした。 その手はいつだって私を、安心で穏やかな国へと連れていってくれた。 その国はとても狭くて何も無かったけれど、呼吸をするのが楽なところだった。 いつしか私は、腰の曲がった祖母の背を抜き、子供から女性の体つきに変化していく歳を迎えた。 初潮を迎えた日には、祖母が小豆を洗い、餅米と一緒に炊いてくれた赤飯を食べた。 「女の人になったんだねえ」 目を細めて私の成長を喜びながらも祖母は、今一度、 「余所の人と関わったらダメだよ」 と釘を刺すのだった。 祖母もまた、娘に捨てられた人だった。 だから、私が誰かと共に消えてしまうことを恐れていたのだろう。 今になって、そう思う。 体の大きさや形が変わりつつあっても、私の世界の軸はブレることなく、祖母ただ一人だった。 それは、私が高校生になるまで続いた。
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