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花屋敷馨を想うことは、もうなくなっていた。
以前は構内で見かけただけでも心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしたのに、今はそんなことはない。
見かけることすらなくなった。
もしかしたらすれ違っても気付いていないのかも知れなかった。
――逢いたいとも思わなくなったしな……。
顔を上げると寿夫の視線とぶつかった。初めてのあの日に見せた真摯な瞳だった。
「違う……花屋敷の事……じゃない……。ただ……」
「ん……?」
「ワカメ、ベーシストが……」
「ワカメベーシスト? おう、キョウさんのことか?」
寿夫が笑いを堪えながら聞く。雪人はまた俯いた。
「キョウって言うのか」
「いや、ワカメベーシストでいいけど、分かるから。で、それがどうした?」
「ん……うまく……言えないんだ……」
「もしかして、バンビちゃんか?」
雪人はハッとして顔を上げた。
「ありゃ、恋人同士なんだろうな。お互いにメロメロって感じだったもんなぁ」
「気付いてたのか……」
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