シンデレラ

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 王子アルバクライン六世は王宮の自室で椅子に腰掛けている。  アルバクラインは飛び抜けて聡明という事ではなかったが、教育係の賜物か思慮深い人間ではあった。  ティーテーブルを挟んでその奥に立っているのは執事のクロフォード。  クロフォードは、まさにその「飛び抜けて聡明」な人物であり、アルバクラインが幼少の頃よりの教育係であった。  もっとも、アルバクラインが八歳になった頃からは各学問の専門家が教師として招かれるようになり、社会性を身につけるため学校にも通うようになったため、クロフォードは直接の教育係を退き二十一歳に至る現在までアルバクライン担当執事長としての役席を担っている。  ティーテーブルの上には片方のみの靴が置かれている。アルバクラインとクロフォードはその靴を見つめていた。  靴は無職透明、材質はビードロだが、自ら光を放っているかのような不思議な光沢をまとっていた。  二人はこの靴の持ち主を探していた。  事の発端は先週行われた舞踏会に遡る。  その日は兄である皇太子アルフォンソの結婚祝賀舞踏会の三日目だった。  六夜連続で行われたその舞踏会会場にアルバクラインは嫌々ながら参加していた。これまでに結婚候補者として出会ってきた女性は皆、自分自身ではなく、自分の背後にある強大な権力・財産が目当てである事がすけて見えてしまい、アルバクラインは女性不信に陥っていたからだ。  結婚披露舞踏会ともなれば国中から各領地の名士と言われる者が押し寄せ、「我が娘を是非王子の妃として……」と、いわば売り込みに来るのが通例であり目に見えている。  しかし、第一王位継承者である実の兄の結婚祝賀会に出席しないわけにも行かず、笑顔を糊で塗り固めたような顔で二日目までを乗り切った。  そして問題の三日目である。
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