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一人目。世の中には付き合いというものがある。クロフォードに紹介されたのは王妃である母の故郷、南部の辺境伯だかの娘と言っていたか。縁戚にあたるようだが、齢十三、四で政略結婚のダシにされる境遇に同情の念を抱きながらアルバクラインはダンスした。
二人目。王族には、世の中のそれ以上の付き合いというものがある。一回聞くだけではよくわからなかったどこだかのなんとかという娘……というにはやや歳が過ぎてしまった女性とダンスした。未だに誰だったのかわからずじまいでクロフォードにもう一度聞けば解るのだろうが、こういう席でもない限り会うこともないので特に問題はないだろうと思い、質問することはなかった。
次の曲が始まる前。アルバクラインはクロフォードの方を見て「次は?」という目配せをする。しかしクロフォードは意外にも首を振る。今までにない反応だったので思わず怪訝な顔をしてクロフォードに直接聞きに行ったところ、
「実は、出席を予定されておりましたジルベルト家から、仕事のトラブルにより急遽明日の出席へと変更したいと連絡がありまして」
「つまり?」
「この後は、ご自身でお相手をお選び頂いて結構でございます」
魔法のような時間だった。最初こそお互い緊張のせいかステップが合わずギクシャクしてしまったが、数分も経たないうちに相手の動きに合わせられるようになった。『青銀の姫君』は決してダンスが上手いとは言い難かったが、何故かアルバクラインは姫の動きが手に取るようにわかり、いつもより華やかなダンスが踏めるように感じた。
彼女は身分の差を理由に決して名前を名乗ろうとしなかった。関係ない。教えて欲しい。とアルバクラインは頼もうとしたが、この朝日のような眼を哀しみの眼に変えてしまうのではと怖気づき、とうとう言い出せなかった。
鐘の音が、鳴る。
青銀の姫の顔は笑顔から、驚いた顔、そして深い哀しみを湛えたように変わり、もう行かなくてはならないとアルバクラインへ伝えた。アルバクラインは事情を聞こうとしたが、あっという間にホールを抜け出し、階段を駆け下りてしまった。
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