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あまりの事に追いすがることもできず出口で呆然としていると、異変を察知したクロフォードがすぐにアルバクラインの元へ駆けつける。
「……私は嫌われてしまったのだろうか……?」
「王子、私が見ていた限りですが、そのようなことはございません」
「では……なぜ」
「王子はお気づきになられませんでしたか?あの固い決意の眼差しの奥に何があったか」
「奥に……?」
「人が固い決意をする、ということには必ず理由があります。逆もまた然り、理由がなければ人は決意できないでしょう。なぜなら人間には『怯え』という感情があるからです。推測でしかありませんが、彼女は何かに怯えておられたのではないでしょうか。そして勇気を持ってその怯えを振り切り、ここに決意を持ってご出席されたのです」
「……怯えていた……」
ふと、クロフォードが何かに気づいた様子で階段をゆっくりと降りていく。そして中腹あたりでしゃがみ込みハンカチを出して、あるものを掴み持ち上げた。
「王子」
階段を上って来たクロフォードが手に持っているものは、淡い光を放つビードロの靴だった。
舞台は冒頭に戻る。
「で、急にどうした。何かあったのか」
伝えたい事がある、と部屋に入ってきたクロフォードに向かい、アルバクラインが促した。
「王子、この靴の持ち主が判明いたしました」
「…………なんだと?」
「このビードロの靴を履いていた青銀の姫君が誰なのか、が判明したのでございます」
「だ、誰なんだ」
「ジルベルト家の使用人、エラでございます」
「ジル……あの日、事情があるとかで来られなかったジルベルト家か」
「左様で」
「しかし、なぜその使用人が……ああ、いや、この際それはどうでもいい事だ。そんなことよりも何故それがわかったのかが知りたい」
「実を申しますと、判明したのは全くの偶然でございまして」
しばらく前からクロフォードは王宮近衛隊長と一計を案じていた。ジルベルト家は現在の主人であるアストルーズ・ジルベルトが一代で築き上げた強大な商家であり、近隣の爵位を持つ領主家との政略結婚を通じて社交界に入り込んできた。
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