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『王宮はある女性を捜索中であり、その人物の手がかりとして靴が残されている。その靴をもって王宮の使いが全国の貴族、豪商家にいる独身女性を順に回る。足に一致したものがその人物であり、王子の后候補である』
という内容のお触れが出されたのは、それから三日後だった。
クロフォード等はジルベルト家以外の名家を順に周り、すべての女性にビードロ靴を履かせて回ったが、もちろん誰も一致しない。
というよりも「一致させなかった」。別の家を回っている間、万が一にも「ピッタリの大きさの足を持つ女性」が現れては困る、そう考えたクロフォードは、王宮に出入りするビードロ職人に幾つかの大きさの靴を作らせたのだ。そして女性を見てから「絶対に合わない靴」を背後で選択し、囲いの中で履かせたのである。
巡回が開始されてから五日後、ジルベルト家に潜入しているスパイから報告が入った。
「王子、朗報とも悲報とも付かない事態が発生しております」
「どうした」
「まず、エラはジルベルトと共に何らかの悪事を働いてるわけではなさそうだ、という事が判明いたしました」
「おお!真か!」
「はい。しかし、その判明の仕方が少しばかり厄介でして」
「判明の仕方……?」
「エラの姿が見当たらないのでございます」
「……何」
「スパイからの報告では……屋敷の地下牢ではないかと推察されると」
「なっ……」
エラが仮に「ジルベルトの側近として重要な役割を担っている」立場であれば、「足が一致さえすれば王族と政略結婚出来る」状況を逃すはずがない。ジルベルトの主導でエラを出席させていれば、そもそも舞踏会に出席していた事自体が罠だった可能性が出てくる。
しかし、このまま行けばエラが足を合わせることはない。ジルベルトからしてみると「エラが王子の后になってしまうと困る」、敵対関係にあるという事の証左であった。
「早く助けねば!」
「お待ちください。もちろん助けたいのは山々なのですが、全く証拠がありませぬ。近衛隊が強制調査に入ってもし何も掴めなかった場合、次に動きづらくなってしまいます」
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