眠りのプシュケ

　コンビニでのバイト中、その子の姿を見かけたのは、これで四回連続。
　その前は二回連続。
　その前の前は中一日で三回ばかり。

　決まって夜中の十時以降。いつもひとりきり。お菓子の家の魔女かってくらいにスナックを購入。どれだけ上に見積もっても十代の前半。

　おまけに、毎日違う部位に違ったサイズの絆創膏＆ガーゼを貼ってるんだから、いやでもいやな印象をいだくってわけだ。

　なにしろ、その手のニュース記事を切り抜けば一週間でスクラップブックが破裂する世の中。
　彼女はここ数日というもの、うちのクルーの間じゃ話題の人物。

　通報したほうがいいんじゃないか／でも、よその家庭事情に口挟んでいいんですかね？／児童相談所だっけ、ああいうトコにこっそり耳打ちするくらいならいいんじゃね？／でも、勘違いだったらどうするんですか／あれだけ生傷こしらえといて勘違いもクソもねーだろ、ボクサーかっての／こんな真夜中に子供をひとり出歩かせている時点で育児放棄だろう／でも、最近の子供って自立してるって言いません？／えとせとら、エトセトラ。

　同僚の面々は延々と議論を続け、休憩時間を丸々潰しているけど、俺はもう少しばかり彼女についてご存知。

　なぜ？
　その子は俺のご自宅のお隣に住んでいるから。

　家賃七万の賃貸。俺は四階の階段側。あちらはその隣。
　名前はしらない。母子家庭で、親は日没出勤の明け方に帰宅。

　というのは、ケーブルテレビの勧誘に来た兄ちゃんが漏らした情報。
　持ち合わせてる知識はそれぐらい。それ以上でもない。それ以下でもない。

　そして噂の少女は今夜も十一時にご来店。
　小さなかごにスナックを詰め込む。レジに放り出す。温める余地もない。お箸をおつけする余地もない。簡潔に完結した簡単な買物。
　分厚い財布からよれた千円札を抜き出す。淡々と支払いを済ませる。怒ったような早足で退店。

　後ろ姿を見送る。
　クルーの皆さん、仕事の片手間に無限ループの議論。