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声の感じからして、若い男のようだ。病衣を来た男はゆっくりと起き上がる。
その顔には何故か狐のお面があった。
顔色はわからず、出血の部位は肩からのようだった。
「いやー、久しぶりにフラーっと来て。お二人は白衣を着てますけど、看護婦さんですか?」
出血しているにも関わらず、本人はのほほんとした口調で話す。
「んー、おかしいなー。僕、用事がある時だけ来てほしい、って頼んでたんだけど、聞いてないですか?」
「え、いや聞いてましたけど」と斎藤が答える。
「まー、でも良かったです。自分から挨拶に行かずに済みました。今日からお世話になります。名前は、そうですねー、今狐のお面をつけてるので、キツネと呼んでください。よろしくお願いします」
そういってキツネは座り直し、ペコリと頭を下げた。
「お二人のお名前も宜しかったら教えてもらってもいいですか?」
お面で隠されているはずなのに、キツネがニコリと笑っていることがわかった。それこそ、不気味な笑みを浮かべているだろう、と早川には感じられた。
「さ、斎藤です」と斎藤が先に返事をする。続けて早川も名前を告げる。
「斎藤さんに、早川さんですね。これからよろしくお願いします」
なんとも言えない雰囲気を作り出しているキツネ。
ふと、キツネの顔が斎藤の胸元で止まった。
「すいません、斎藤さん。今の時間を教えていただいてもいいですか?この部屋に時計をいれるのを忘れまして」
「あ、はい」
キツネは胸ポケットにある時計を気にしていたようで、斎藤が「もうすぐ10時です」と答える。
「あぁ、それなら時間ですね」とキツネの愉快そうな声が聞こえる。
スッと、病衣の懐に手を入れ、何かを取り出す。
その手のものは、二人に考える隙を与えることをせずに、「ズチュッ」と嫌な音を何度も立てる。
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