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「そうやって生きてきたんですよ、僕」
キツネが愉快そうな声で、早川に話しかけた。
血がしたたり落ちるほどの傷口に簡単な処置しか受け付けないキツネ。早川はぎこちない動きで止血から保護まで行っていた。
「別に虐待とか受けてたわけじゃないんですよ。きっかけは確か・・・・・・そう、母親が目の前で死んだことによるショックだとか? 小さいころに一度カウンセリングを受けに連れて行かれたんですよ。そしたら、そこの心理士だか医者だかの人に言われたんです」
まるで他人事のような口調で話す。
「小学生のころは専らぬいぐるみに話しかけて、父親が家から出て行っちゃったんですよ。それからは親戚の家を転々と、という言い方では少し語弊がありますね、たらいまわしにされてたんですよ」
「よく言われてたのは、頭がおかしいだとか、狂ってるだとか。でもおかしいと思うんですよ。僕からすれば頭がおかしいのは相手のほうだと思ったんです。僕は僕の世界でせっかく生きていたのに、それを壊そうとしてくる大人や、理解を示してくれない同級生たち」
「そんな人たちにですね、少し僕の世界を見せてあげたんです。そしたら、理解を示してくれる人と憐れんでくる人が出てきてですね。それが可笑しくって」
キツネはそれを懐かしむように段々と優しい口調になってくる。
「それから、今度は大人になって、同じような話をするとですね、こんな僕に興味を持つ人、面白がる人、同情する人、いろんな人が出てきたんです」
「こんな僕にどんな感情であれ、関心を持つ人が大勢いるんですよ。狂ってる僕に関心をもつ、そんな人も頭がおかしい、狂ってると思いません?」
今度はケラケラと笑って話す。
怒ったり、悲観することはなく、ただただ優しく、楽しそうに話す。
そんなキツネを見て、早川は「まぁ、よく喋ることで」と呟く。
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