人格形成

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「ふふ、早川さんみたいな人、やっぱり好きですよ」とキツネの手が早川の手の上に重ねられる。 血の気がなく、真っ白な手は出不精で色白の早川の手より、異常な白さを見せる。 「早川さんにだけ、特別に教えてあげます」 ―――クマのぬいぐるみが大好きだった少年が、大好きなおかあさんと別れた時の事 『××、おかあさんはもういないんだよ』 父親が優しく少年の髪をなでる。 『××、それはただのぬいぐるみなんだよ、おかあさんじゃないんだよ』 何度も何度もそう言っては、ぬいぐるみから少年を引きはがす。だけど、気付けばどこからかぬいぐるみを見つけてきては、『おかあさん、いたよ』と父親に笑顔を向ける。 そんな少年を見て、父親も考えた。 『××、おとうさん、考えたんだ』 『どうやたら、××がそのぬいぐるみをおかあさんと呼ばなくなるか』 『おかあさんが居なくなった時のようにすれば、きっとわかるよな』 『さぁ、これをもって』 『あの時みたいに』 『おかあさんを刺してごらん』 台所から取り出した包丁を、ゆっくりと少年の手に握らせる。父親は少年を後ろから抱きかかえ、包丁を握らせた少年の手を、優しく包み込むように握る。 『おとうさんと一緒だから怖くないよ』 少年が振り返り、父親の顔を見る。涙を流しながらも、微笑む父親の顔を見て少年はにっこりと笑い返す。 『さぁ、おかあさんにバイバイして』 『うん、じゃあね、おかあさん。バイバイ』 そう言って、二人は何度もぬいぐるみに刃を突き立てた。 少年の後ろで父親は狂ったように笑った。 ―――あぁ、これは楽しいことなんだ。 ―――あぁ、これは正しいことなんだ。 ―――僕は間違ってないんだ。 ―――だって、お父さんがこんなに楽しそうにしているんだから。 少年はにっこりと笑った。 『ありがとう』
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