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「本日一名、入院があります」と朝の申し送り時に、唐突に病棟師長が言った。
その場にいた全員が「えっ?」と師長のほうを見た。
師長はそれにかまわず、手元にある紙を見て続ける。
「今日来られる方は、短期入院予定で、お忍びで来られる方です。対応する人は最低限で。患者情報も対応する人だけ閲覧可、と指示があります。また患者が何をしようと、こちらは一切の責任を取らなくて良いこと、ただし、口外は絶対にしないこと」
平然と言い放つ師長に対し、皆さらに困惑する。
自分たちがいるのは慢性期の病棟であって、短期入院、ましてや新しく入ってくる患者は違う病棟に入院するはずだ。
そして「患者が何をしようと」の一言に、違和感を覚える。
「こちらで対応する人は決めています。今日は斎藤さんと早川さん、お願いします。私からは以上です」と言い、師長はそれ以上口を開こうとはしなかった。
それから申し送りも終わり、斎藤と早川はそのまま師長に呼ばれ、別室に移動する。
斎藤は早川よりも長年看護師をしているが、病棟勤務は早川と一年ほどしか変わらない。
「それでも、そんな患者さんは初めてよ」とやや間延びした口調で斎藤が言った。
「普通なら事前に連絡があるだろうし、ホントに緊急か、もしくは有名人とか?」といろいろ考えを巡らせる斎藤。ひとりで考えればいいものを、なぜかすぐに口に出してしまうところは、彼女の欠点でもある。
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