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てっきり喜んでくれる、と虹子は信じていた。
所が男は、その場に座り込み、頭をかきむしった。
その後男は住んでいたアパートを引き払い、連絡も取れなくなり、行方が分からなくなった為、それ以来会っていない。
虹子はその後、実家でカナミを生み、両親と暮らしていたが、父も母も相次いで病死し、家は借家だった為、そこを出て、母子家庭専用のこの団地に
3年前に越して来て今に至る。
「ちょっとホンマにもぅ~、何してんねん」
虹子が居間の隣のフスマを開けると、頭からかぶった布団の中から
「今日は行かへん」
と、こもった声が聞こえた。
「どないしたん。今日は土曜日やから、学校半どんやん。昼で帰りやんか。頑張っていかなアカンよ」
腰に手をあて、見下ろしながら言うと、また
「調子悪いねん」
と、こんもり太った布団から、かすかに聞き取れるくらいのかすれた声が聞こえた。
さすがに虹子は心配になった。
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