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私が死んでからの、次郎の一人暮らしは、とても目に当てられないものでした。
洗濯も掃除も何もかもが遅い。特に食事面が酷いのです。彼ときたらもう、ろくに調理なんてしたことがないから、市販のカップ味噌汁やサトウのご飯に、調理済みのお惣菜をわざわざ買って一日を済ませているのです。それに、毎晩大量のお酒なんて飲んで、頭から足の先まで真っ赤に茹で上がって、朝までリビングの座布団に埋もれているのです。
──あぁ、歯がゆい。もしも私がまだ生きていたなら。
洗濯用の洗剤はそんなに多く入れません。掃除機のコードはいちいち巻いて戻したりしません。食事をわざわざ買ったりしないし、お酒もそんなに飲ませません。
呆れ果てて、次郎の寝顔を踏んづけてみます。次郎の顔は彫刻のように硬く、ざらざらとした肌の感触はありましたが、次郎は全然起きようとせず、無視されているようでイライラしたため、その後この間抜け面を何度か踏みつけてから、私は自室に戻りました。
お盆の日のためか、それともただの面倒くさがりなだけか、私の部屋は生前と何も変わっておらず、小さな卓袱台と紫色のクッションは、まだ畳の上で私を待ってくれていました。期待を込めて座布団に正座をしてみましたが、座布団の柔らかい感触はなく、硬い床に座ったような心地がしたので、すぐに立ち上がります。次郎の顔も硬かったことから、きっと死んだら柔らかいものに触ることができない、というルールがあるのでしょう。猫好きにとっては辛い制限だと私は思いました。
──あなた、まさかとは思うけれど、私の後を追うなんて考えていないでしょうね?
酒を浴びるように飲む次郎を見て、私は悪い予感がしました。彼はよく私をからかって怒らせていましたが、私が体調を崩したときなどはよく看病してくれるほど、私のことを大切に想っていてくれているのです。自惚れかもしれませんが、私が死んでしまった今、彼には生きる希望というのがあるのか、疑問に思うのでした。
──いえ、きっと自惚れでしょうね。
洋服タンスの、私の下着が入った棚の奥に隠してあるヘソクリ。せめて死ぬ前に渡してやればよかったと、私は今更後悔するのでした。
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