1人が本棚に入れています
本棚に追加
次郎が倒れた日は、奇しくも私の命日と同じように、空は晴れ渡っていました。
胸を必死に抑える次郎。お酒を飲みすぎて、心臓に負担がかかり過ぎたようです。救急車で病院まで運ばれていく中で、次郎は苦しそうな声で、「待ってろ。今行く」と呟いているのが聞こえます。一方で私は、次郎と一緒に救急車に乗り込んで、次郎に向かって、このドキュン(これも孫の使っている言葉です)と口をいっぱいに開いて叫んでいました。
彼はいつも自分勝手な男で、私は終始彼に振り回されてばかりでした。
小学校ではいたずらに加え宿題の手伝いまでさせられ、中学校では彼の入部した野球部のマネージャーに勝手に推薦され。志望していた難関校から難関大学までしつこくついてきて。しょっちゅう私に話しかけてきて、海や川に連れていかれ。ドライブをしながら、二人で夕陽を見に行かされ。
──私がいじめられていたときは、真っ先に助けられ。今まで誰とも仲良くできなかったのに、彼だけは友達でいられ。不安だった高校から大学生活まで、一緒にいられ。
『春代。俺と付き合ってくれ』
──夕陽の影に隠れて、あんなに綺麗な指輪をはめてくれて。
次郎。あなたはやはり勝手です。
私の気持ちを、勝手に汲み取らないでください。
勢いをつけて、次郎の右頬に平手打ちを放ちます。何度も、力強く。昔、彼が全然起きないときにしたのと同じように。
最初のコメントを投稿しよう!