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眠らぬ男
気付けば知らない裏路地にいた。
杉本 涼介は目の前に見えた藍染の暖簾をなんとなく、本当に何の気も無しに潜った。
「よくぞここまで来た。ここは失せ物屋。
己の無くしたものを、取り戻してみせよう。
一体何を無くした?」
やけに高い上がり框の上から、柿渋色の着物を着た男が煙管を片手に慇懃無礼な笑みを向けて杉本を見下ろしている。
時代劇のセットのような重厚な日本家屋の造りの建物に、綺麗に掃き均した土間。まるで自分が江戸時代にタイムスリップをしたような不思議な錯覚に陥る。
「……ああ、そういうことか……」
杉本は1人納得した。
仕事帰りに1人で飲み屋に入った。飲んでも飲んでも酔えないと思っていたが、いつの間にやらかなり酔っ払って寝てしまっていたのだろう。
これは夢だ。
こんな場所はあの小さな飲み屋の近くには無い。
夢ならば、今まで人には話せなかった悩みを話しても良いだろう。
そう思い、杉本は言った。
「僕の上司を助けてください」
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