眠らぬ男

2/8
前へ
/8ページ
次へ
「お前の上司? そいつは何を無くした?」 「無くした……って言われると困るんだけどなあ。そうだな……強いて言えば、『眠る事を無くした』んです」 ほほう、と着物の男はニヤリと笑う。 「眠らずに、上司は何をしている?」 「仕事を。ずっと、仕事をしているんです。どうか彼を眠らせてあげてください」 夢の中で僕は何を話しているんだ、と思う反面、夢だから何を言っても良いだろうとも考える。 杉本の上司は誰よりも働いて誰よりも頭を下げていた。もう、誰の声も届かないで、ずっと仕事に縛られている。 どうか、だからどうか、彼に休息を。 「俺はそれなりに商売としてやっている。お前は、その上司の為に何を支払う?」 「えっ夢なのに、料金も請求するの? そうだなぁ…… 夢の中の金なら、夢で支払うのはどうでしょう?」 「なに?」 「僕、この間宝くじを買ったんです。それが当たったら貴方に支払いますよ。覚めたら消える話なら、宝くじと同じでしょ?」 どうせ夢でしょ?、と杉本がヘラっと笑うと、男は突然大声で笑い出した。 「面白い。 良いだろう、この話請け負った」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加