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「お前の上司? そいつは何を無くした?」
「無くした……って言われると困るんだけどなあ。そうだな……強いて言えば、『眠る事を無くした』んです」
ほほう、と着物の男はニヤリと笑う。
「眠らずに、上司は何をしている?」
「仕事を。ずっと、仕事をしているんです。どうか彼を眠らせてあげてください」
夢の中で僕は何を話しているんだ、と思う反面、夢だから何を言っても良いだろうとも考える。
杉本の上司は誰よりも働いて誰よりも頭を下げていた。もう、誰の声も届かないで、ずっと仕事に縛られている。
どうか、だからどうか、彼に休息を。
「俺はそれなりに商売としてやっている。お前は、その上司の為に何を支払う?」
「えっ夢なのに、料金も請求するの?
そうだなぁ…… 夢の中の金なら、夢で支払うのはどうでしょう?」
「なに?」
「僕、この間宝くじを買ったんです。それが当たったら貴方に支払いますよ。覚めたら消える話なら、宝くじと同じでしょ?」
どうせ夢でしょ?、と杉本がヘラっと笑うと、男は突然大声で笑い出した。
「面白い。
良いだろう、この話請け負った」
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