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「お先に失礼します」
「おつかれサマ……」
後ろから聞こえた挨拶に、まだ残る者は口元だけで返事をした。
時刻は12時を過ぎている。
オフィス内の電気は数カ所のみ残されて、パソコン画面が光る数だけ社員が残っている。
その中に杉本が居た。
皆、疲労と戦いながらひたすら終わる事を願い仕事をする。
自分のノルマが終われば、1人、また1人と、社員が抜けて照明が落ちていく。
最後に残されるのは杉本と上司の武田だ。
静かな空間に、カチャカチャとキーボードの音と微かなモーターの音がする。
後は自分自身の呼吸音。
「……武田さん、もう少ししたら、僕、終わりますけど」
杉本が声をかけても、武田はピクリともしない。画面を見続け、ひたすら自分の仕事をしている。
もうずっとこの調子だ。
杉本が照明を落として帰っても、まだ彼は1人で仕事をし続けている。
目の保護の為のカバーを付けていても、こう何十時間もパソコンを覗いていたら意味など無いだろう。
同じ姿勢で作業をする武田が上司と言えども哀れに思う。ここまでやる必要があるのだろうか。
乾いた目に指を押し付け、杉本は目を閉じた。
「あの夢が本当だったらなぁ……」
つい、そう呟いた時だ。
杉本の耳元に、失せ物屋の主人の声がした。
「ーー本当だよ」
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