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至近距離で聞こえた声に驚き、危うく椅子から落ちそうになり、慌ててデスクにしがみついて振り向くと、あの店の主人が煙管を片手に立っていた。
絣の着物に外套を着込み、例え夜で人が少ないと言えども、こんな目立つ姿でよくここまで入って来たものだ。
おまけに同じような着物姿の稚児まで連れて来ている。
「あああああ、あんた……っ!
夢の人が、なんでぇっ!?」
さっきは持ちこたえたのに、今度は勢い余って椅子から転げ落ちた。
夢だと思っていた男が目の前に現れ、驚き過ぎて腰も抜けた。
ただただ無様に指を差していると、隣の稚児が「シッ」と人差し指を口に当てる。
杉本の馬鹿面を愉快そうに眺めた後、店の主人は黙々と仕事をする武田を見つけた。
「おまえの無くしたものを取り戻してやろう」
「あっ……ちょっ、ちょっと待って……武田さんは……!」
慌てる杉本に、「だいじょぶです」と稚児が言う。
「旦那様は、全て分かっておいでですから」
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