勇者さまの尻尾

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勇者さまの尻尾

 わたしは子どものころから家族に連れられて、鍛治の村だとか、船の街だとか、他人のすみかを転々としていました。  旅の一座というと聞こえがいいですが、故郷を持たない流れ者の集まりです。  一日の大半は、姉と一緒に歌とか踊りとか、芸ごとの練習ばかりでした。  学校に通っているよその子どもが、うらやましくてしかたなかったのを覚えています。  わたしは芸ごとよりも、学校に行きたかったんです。  けれど父は、わたしの人生に学問は必要ないと言いました。  反発すれば叩かれます。  幼いわたしに、家業に逆らって暮らす道はありませんでした。  姉はわたしよりも早く、父に適応していたようです。  お金持ちの男の人を引っかければいいじゃないと言う姉にならって、わたしはせっせとお化粧の練習をしました。  そのうち舞台にも立つようになって、酔った酒場で拍手をもらう高揚感も覚えました。  とはいえ、同じところにひと月もいられない仕事です。  男の人とは何度も付き合いましたけど、旅に出るたびに別れました。  ちょうど、グリフィンが空を飛び回って、街道にも怪物が出るようになった頃のことです。  一座と一緒に旅をするとなると、みんな尻込みしたんです。  尻尾を隠して人に化ける怪物もいましたから、よそ者をかくまって住まわせてくれる街もありませんでした。  駆け落ちするにしても、二人だけで出て行くのは無茶というものです。  そうしているうちに、行く先々で別の男をつくればいいって思うようになりました。  こう見えても、人気者の踊り子だったんですよ。  けれど、年かさになると、若い見習いの方がもてはやされて、近寄ってくる男のひとも少なくなりました。  姉の方はさっさと父の言いなりになって、路地裏で見つけた蛇使いの男と結婚しました。  思いのほか相性がよかったのか、すぐに姪っ子が産まれて、たっぷりと愛嬌をふりまいてくれました。  姉の次はわたしの番です。  父もわたしと同じで、子どものころに勉強をさせてもらえませんでしたから、自分より学のある人間を一座に引きこもうとはしませんでした。  一種の意地というか、学問を軽蔑することで自分を守っていたのでしょうね。  自分が育てられたように、わたしを育ててしまったのだと思います。  今になってようやく、意固地になって旅を続けていた父の気持ちがわかるようになりました。
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