第1章 再会はすれ違い、

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第1章 再会はすれ違い、

校内に大きく響き渡るチャイムと、途端に教室中はがやりと音に溢れる。 その隙間を縫うように、小さな声が聞こえた。 「カイくん」 振り向くと、肩までの髪をふわふわと風に遊ばせた少女がすぐ後ろに立っていた。 目がぱっちりしていて、さくらんぼの唇がかわいいと思った。 「カイくん、あのねぇ、ちょっとお話があるの、だから」 舌っ足らずなしゃべり方と上目遣いは、(男子からみたら)かわいい女子の必殺技だ。 カイは特別教室の使用一覧をちらりと見た。 「いいよ、次の授業はなさそうだ」 そう言って、冷やかしの声にはひらりと手をふってやり、誰もいなくなった教室の戸を閉める。 「さてと、何の用かな?」 わかりきっている質問をする。 少女はもじもじしているふりをしながら、上目遣いは忘れなかった。 「えーとね、カイくんのことが好きなの」 少女の頬を指でさすった。少女はくすぐったそうに首をすくめる。 カイはそのまま指を首に、つっと添うように撫でた。 「俺もかわいい子は好きだよ」 ゆっくりと首へ口を近付ける。 ぷっという音と共に紅い玉が散る。 少女の見開いた目は宙をさまよい、恍惚の表情が浮かんでいた。 そのとき、カイの背後でカシャリ、という音がした。 ただの雑音として捉えるが、気になって口を離す。 浮き出た血を舌で掬うと、見事に傷跡が消える。 「ーーでも残念だ」 ふと少女の目に光が戻り、体が傾ぐ。 それを見事に支え、顔を覗き込む。 「大丈夫?」 「うん……貧血かな、ぼうっとする」 少女を椅子へ腰掛けさせ、カイは困ったような笑みを浮かべた。 「ごめんね。俺の好きな子は君じゃない。だから付き合えない」 少女は目を丸くした。 しかしカイの言葉にあっさりと頷く。 「そっかぁ。その人とうまくいくといいね。真美も祈っとくね」 そして軽やかに立ち上がり、笑顔で手を振って立ち去る。 カイは少女の座っていた席に腰を落とす。 先ほどの血が、右手に小さくはねていた。 それを口元に持っていくと、美味しそうになめ掬う。 ここでもう一度カシャリと音がする。 ドアの向こうからだ。 半分がガラスで出来た扉の向こうで、別の少女が目を見開いていた。 手には携帯を持っている。 問いただそうとカイは立ち上がる。 瞬間、少女は背を向け走り出した。
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