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腰が抜けて立ち上がれない私達に、気が動転していたのだろう、土足で上がり込んだ男が近寄り、ひたすらに謝りながら手を差し伸べて立ち上がらせてくれた。
「すみません、本当にすみませんです」
聞けばやはりと言うべきか。
積載した鉄骨がしっかりと止められておらず、我が家の前のカーブを曲がったところで限界が来たのか、一気に鉄骨が崩れて滑り落ちたのだと言う。
「ウチで弁償しますので、すみません。本当に申し訳ありません」
その足元に。
鉄骨に押し潰され、あえなく破壊された時計が転がっていた。
小学生の頃から使い続けて来た時計だった。
物持ちが良いわね、と笑っていた妻の手が伸びる。
「あら、お役御免になっちゃったわね。でも長い間ありがとうございました。ゆっくりおやすみ下さい」
一つ一つの欠片を丁寧に拾い上げる妻の傍らにしゃがみ込み、私も不思議と手を傷付ける事などないと確信しながら破片を集めていた。
「ありがとう。ゆっくりおやすみ」
……この子はデジタルだ。秒針の音なんて本来しない。
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