駆け巡る灯

3/11
前へ
/11ページ
次へ
ーーーーー 真っ白な空間にいた。 左も右も真っ白で、上も下も前も後ろも真っ白なそんな場所。 音も匂いさえもしないその無機質な空間は、この世のものとはまるで思えない。 「わしは…死んだのか…?」 そんな空間に、自分は一人立っていた。 「ここはあの世か?天国なのか?」 今まで見たこともない景色に圧巻され思わず溢れた言葉を聞いて、一人で驚く。 病気のせいで喋ることすら難しくなってきていたはずなのに、難なく話せているのだ。 他にもガタがきていたはずの身体の調子もすこぶる良くなっている。 すると真っ白だった風景が一風していく。 淀んで微睡んで、鮮やかに色づいていく。 現れたのは部屋だった。 勉強机があったり布団の敷かれた、こじんまりした部屋。 いやこれはーー。 「啓介、あんたこんなの書いてたの?」 「……あぁ、そうだよ。わるいかよ……」 部屋には二人の学生がいた。というか一人は自分だった。 若い頃、高校生ぐらいのときだろうか。 丸坊主にされた頭が部屋の灯りを照り返し、キラリと輝いてる。 もう一人は女の子だ。おかっぱ頭にまるっとした目が印象的な女の子。 その子の表情は、ニヤニヤというかニマニマというか、そんななんとも言えない笑顔に包まれていた。 見ればその手には表紙のところに雑に日記帳と書かれたノートがある。 そういえば高校生のころに日記を書いていたと思い出す。 内容は思い出せないが。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加