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このときの自分はどうしようもなく身勝手で、的外れであったことは今でも覚えてる。
だけど、言わずにはいれなかった。
心に積もった不満や怒りを、不安を誤魔化すためにただ何かにぶつけたかっただけだった。
「お前が俺のやってきたことの何を知ってるんだよ!会社勤めで毎日早くに起きて、満員電車に揺られて、営業で頭も下げたくないクソみたいなやつにも媚びを売らなくちゃいけない俺の気持ちがわかるのかよ!」
「それは……」
「わかりもしないくせに。俺がお前のために、お腹にいる子どものためにこんな仕事を必死に続けてきたっていうのに……お前は」
若い自分の一言にばあさんは怯えたように竦んだが、それでも何とか取り持とうと言葉を続ける。
「大丈夫、大丈夫よ。次の職なんかすぐ見つかるわ」
「……大丈夫じゃねぇよ」
乱暴に立ち上がった若い自分は、そのままばあさんには見向きもせずに部屋を出て行ってしまった。
静寂に染まった室内。
そこでばあさんは一言、ひとりごちる。
「私が、支えなきゃ」
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