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目を開けると、そこには見たことがない駅名が書かれた看板があった。
「お客さん、終点ですよ。降りて下さいね」
「ああ、はい、すみません……」
車掌だか駅員だかわからないが俺に声をかけた同年代の男性は、ぼんやりとしたままの俺を見て少しの同情を含んだ眼差しを一瞬だけ向けてから去っていった。
そう、ここは電車の中だ。
心地よい音を立てて動いていたはずの電車はすっかり止まって、にぎわっていたはずの車内には誰もいなかった。
それに、開いたり閉じたりしていたはずのドアも開きっぱなしだ。
夕陽が眩しくて、目がうまく開けられないけど……ん?夕陽?なんでこんな時間に電車に乗ってるんだっけ?
俺はよろよろと電車を降りながら必死に思い出す。
あ、そうだ。
今日は久々の早番だったんだ。
降りたことのないこの駅は不思議と人の姿が見当たらない。
だけどこの時の俺はそれを不思議とは感じず、むしろ何故か懐かしさと心地よさを感じていた。
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