夕暮れの通勤電車で。

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それにしてもこの風景、見覚えがある。 どこで見たのかはわからないがとてもよく知っている気がする。 草が生い茂った土手道を川の流れとは逆へ歩いて行くと、1人の少年がうずくまって泣いていた。 河原の方からは野球をしている声がするから、大方、仲間はずれにでもされたんだろう。 「おい、ボウズ。どうした?」 俺もよくいじめられたもんだから、何だか素通りできなくて声をかける。 「……ミー太が動かなくなったんだ」 少年は突然声をかけられて少し警戒したように黙っていたが、俺が視線を合わすようにしゃがみこむと力ない声でそう言った。 「ミー太?」 少年は抱きかかえていた白い毛の何かを俺に見せる。 それは……白い子猫だった。 「ミー太、もう動かないの?」 そいつは間違いなく、俺をここに連れてきた子猫で、そして間違いなく、もう死んでいた。
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