第1章

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 「昨日は結構ハードでねえ。若いっていいよね、体力あって。はじめは嫌がってたのに、一 晩で五回だよ、五回。もう四十過ぎると、そんなに勃たないのにねえ。最後は無理矢理イカせ たよ。見て、この写真」  施術の間、井澤は前日の行為を事細かに話した。そして傍らに置いたスマホのパスワードを 解除すると、井澤の手に落ちた若者のあられもない姿の写真を御崎の目の前にかざした。両手 を縛られ四つん這いになった若者が、尻の穴にバイブを挿し込まれて悶えている写真だった。 御崎が眉間に皺を寄せて目を背けると、その反応を楽しむように井澤は言った。  「もっとちゃんと見てよ、僕の戦果。他にもいい写真があるからさ」  井澤が次々と写真をスクロールする。天井から吊るされている者、井澤に乳首を噛まれて仰 け反っている者、井澤のペニスを咥えさせられている者、井澤に挿入されている若い女性の写 真もあった。御崎は吐き気がしてくるのを抑え、施術する手に力を込めた。  「いいよねえ、若い子は。肌はきれいだし、体に弾力があるし。顔がイマイチでも、若いっ ていうだけで価値がある。ねえ、君もそう思わない? 若い子のマッサージなんて、楽しいで しょ。そういう客いないの?」  「当店にはいらっしゃいません」  感情を押し殺して、御崎は言った。  多様な客の施術をしていると、人の生き方が肉体に表れるというのがよくわかる。風俗嬢は 利き腕が発達し、高級クラブのホステスは常に斜めに座るためなのか体幹が左右どちらかに捻 れている。大企業のトップは徹底した自己管理ができる環境にあるのか、全身のバランスが良 い。それに反して幹部クラスは、ストレスか若しくは酒席で接待される事が多いせいなのか、 痩せていても腹が出ている。  総合商社の中間管理職だという井澤の体は、そのどちらでもなかった。上腕と大臀筋の筋肉 は発達しているが、大腿筋やヒラメ筋がほとんどついていないのは、仕事や趣味で歩いたり走 ったりする事がないからだろう。さほど太ってもいないのに腹筋は贅肉に隠れて見えず、みぞ おちの辺りからポッコリと腹だけが膨らんでいる。若者たちへの所業を知っているだけに、御 崎は井澤を施術するたび、その弛んだ体が何によってもたらされたものかが連想され、嫌悪感 を覚えた。  「また一人、井澤さんの餌食になるのか。次に来た時は、あいつの写真を見せられる事にな るんですかね」
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