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飽きもせず噂話を続ける高見を、御崎は嗜めた。
「お客様のプライバシーだ。他でそんな話するなよ」
「わかってますよ。でも、御崎さんがあんなガキ、いや、お客様の連れの施術するなんて珍
しいですね。もしかしてタイプでした?」
「なわけないだろ。俺は一途なんだよ。男遊びしてるガキなんて冗談じゃないね」
「あっ、今、ガキって言った」
「いいんだよ、俺は。くだらない事言ってないで、次のお客様の準備しろよ」
まだ話し足りなそうな高見がサロンに戻ると、御崎は手のひらを見つめた。オイルで光るそ
の手には、瀬野の感触が残っていた。
瀬野が自分に施術して欲しいと指を指した時、御崎は周囲の空気が一瞬張りつめたのを感じ
て、その若者の方を見た。低い位置からまっすぐに射し込んでくる西日に照らされて、瀬野の
全身はオレンジ色に輝いて見えた。決して筋骨隆々というタイプではないが、大胸筋や上腕二
頭筋の張りがTシャツの上からでも見てとる事ができ、すっくと立った逆三角形の肉体に、若
さへの羨望に似た感情が沸き上がってきた。この若者の筋肉の造形をこの手に感じてみたい。
その刹那、御崎がそうした衝動にとらわれたのは確かだった。
そして想像通り、軽く圧を加えるだけで押し返してくる弾力や、やや大きい御崎の手にフィ
ットする筋肉の盛り上がりは、長い間、御崎が忘れていた触感だった。
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