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四
夜も深くなり、街に静寂が訪れても、アダムは若者たちの喧騒が途切れる事はなかった。
「昨日のオヤジ、マジ最悪でさ。全然勃たねえし。アゴ、すげえ疲れた」
「あのメガネの銀行員? 俺、目ェつけてたんだけど、スルーして正解だった。で、ヤッ
た?」
「もうダメそうだったから、こっちがムリヤリぶち込んだ。あいつ泣きそうだったよ」
「バージン、いただいちゃいましたか?」
「いただいちゃいました。で、開発しちゃいました。最後にはおねだりされちゃって、来週
また会おうってさ」
「何だよ。俺、行くんだったわ」
「残念でした。で、そっちは? あの医者どうだった?」
「こいつと三人で朝までやりまくりだよ。なあ」
「ああ。医者ってのはなんであんなにしつこいのかね。舐めまわすわ、突っ込みまくるわ、
もうカンベンって感じ。あれじゃあ、二人欲しがるのも無理ないわ」
「そのくせめちゃくちゃ甘えてくるんだぜ。赤ちゃん言葉で『早く欲しいでちゅ』って。笑
いこらえるので必死よ」
「でも、いい思いしたんじゃねえの」
「お小遣い、いただきました」
「一人一万円」
「買われてんじゃねえかよ」
「いや、小遣いだから。まっ、しばらくオイシイ生活ができそうだけどね」
ラビリンスで出会った男との情事をオーバーに話し、笑いをとる。笑いのネタになるのなら、
相手がどんな男でも構わない。それはまるで興味のある事をSNSにアップしているうちに、
アップするためのネタ探しに追われる姿に似ていた。彼らにとっては仲間同士のノリが全てで、
そこから外れたら不毛な現実と孤独が待っている。そんなものと対峙する生活など、考えたく
もなかった。
ひとしきりバカ笑いした後の空白を埋めるように、ひと際いいリアクションをしていたヒロ
キが、隣に座る木浦圭に尋ねた。
「瀬野は、今日もデート?」
「そう‥‥かな」
仲間の話に加わる事なく、ひとり女性向けのファッション雑誌を読んでいた木浦は、適当に
返事をした。
「瀬野ってさ、いつも違う相手だよな」
「しかも、タイプも違うくね?」
「どうかなぁ‥‥」
「いつも瀬野にくっついてんだからわかるだろ、木浦。あいつ、もしかしてウリやってんじ
ゃね?」
「そんなことないよ」
仲間の話題が瀬野に移るのを避けようと受け流していた木浦だったが、根も葉もない陰口に、
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