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つい口調がきつくなる。彼らはそれを見逃さなかった。瀬野の事となると向きになる木浦は、
恰好の時間つぶしのターゲットだった。
「だって、あいつ金が必要なんだろ。妊娠したから責任とれって、女がすげえ声で怒鳴って
たじゃん」
「でも、あれ以来、あの女来てなくね? 瀬野は入り浸ってるけどさ」
「ほんとは、あいつバイなんじゃん?」
「と見せかけて、実はヘテロ、とかさ」
「男で稼いで女に貢ぐ、とか?」
「あいつのビジュアル、なんでかホモうけするもんな。あいつといると、全部もってかれち
ゃうからね、ラビリンスでも」
「それあるな。だから、いつも男が変わるんだよ」
「やめてよ。充のこと知らないくせに」
彼らの目論見通り、木浦は挑発に乗ってきた。雑誌を投げ捨てると、手をばたつかせ、全身
で噂話を否定する。その女性的で幼児のような姿を真似て、仲間は爆笑した。
「木浦。お前、宿無しの瀬野を泊めてやってんだろ。いいように利用されてるだけだぞ」
「そうそう。また適当な女見つけたら、そこに転がり込んでさ」
「で、またできちゃって?」
「でも男で稼ぐから大丈夫、と」
事実とは関係なく展開される話の流れに、一段と大きな笑い声が店の中に響いた。
「瀬野が遊んでくれないならさ、俺が相手になってやってもいいぜ。一度試してみろよ。意
外と相性良かったりしてさ」
そう言って、ヒロキが木浦の膝に手を置いた時、入口のカウベルがカランカランと鳴って瀬
野がふらりと入って来た。木浦はヒロキの手を振り払うと、立ち上がって瀬野を迎えた。
「今日は泊まらなかったんだ」
「うん。圭、ちょっと肩貸して」
「眠るなら、ウチに来る?」
「いや、ここでいい」
木浦は隣のテーブルに席を移してソファに深く腰掛けると、「どうぞ」と、自分の肩を叩い
た。ちょうど瀬野の話題で盛り上がっていた仲間たちは、当の瀬野が来た事で、さらにテンシ
ョンをあげた。
「瀬野クン、今日もお疲れさま。いやー、頑張るねえ」
「頑張らなきゃね、お父さんだから」
「なるの?」
「この若さで、それはヤバくね?」
「ヤバいでしょ。それはナイっしょ」
若者たちの戯れ言に笑いが起こる。瀬野は無言で、木浦の肩に頭をもたれかけた。
「なあ、瀬野、今日の相手は男? 女?」
「どっちだっけなあ‥‥」
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