第1章

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 彼らは瀬野に興味があって聞いているわけではない。ただ話のネタが欲しいだけだ。意地に なって無視しても、いつまでも絡んできそうな様子に、瀬野は適当に答えた。  「ホントのところ、どうなんだよ。お前って、ゲイなの? それともヘテロ?」  「どっちもいけるよ」  「やっぱバイだわ」  「だけどさ、今日も別の相手だったんだろ。お前、節操なさ過ぎ」  「探してるからさ、俺。運命の人」  「はあ?」  「キャラじゃねえ」  寝ぼけたことを言う瀬野で笑いがとれた事に満足し、若者たちは再びラビリンスの客へと話 題を移した。瀬野と仲間のやり取りが感情を荒立てる事なく流れていった事に、木浦は安堵し ていた。瀬野は仲間であっても本心を明かす事はない。それを見抜けるのは自分しかいない。 自分が瀬野の一番の理解者なのだと、木浦はどこかで自負していた。  自分に向けられた視線をうまく交わした瀬野は、木浦にもたれて少し眠ろうとしたが、井澤 の部屋であったことが頭に浮かぶたび、意識を呼び戻された。  井澤は瀬野の両手をベルトで縛ると、ベッドの足に括り付けて動きを封じ、ベッドサイドの 引出しから取出したボールギャグを口に嵌めた。だが、危険を感じたのはそこまでだった。時 間をかけてアナルをほぐし、充分な量のローションを注入すると、「挿れるよ」と声までかけ て、瀬野を気遣った。それはビジネスホテルでデリヘルのように扱う男たちよりはるかに紳士 的だった。井澤のペニスで中を刺激され、彼の手でペニスを擦られると、瀬野は反射的に射精 した。だがそれは、溜まっていたものが体外に排出されて、下腹部の重たい感じがスッキリし たというだけで、放尿するのとたいして変わらない。井澤に限らず、他の男たちに挿れられた 時も同じ感覚だった。  なのに今日に限って、射精の後のスッキリとした感覚を阻むような感情が、心の奥底に沈殿 していた。嫌悪。後悔。葛藤。鬱屈とさせるそれらの感情に堪えきれず、井澤が手首のベルト を外すと、瀬野はバスルームに逃げ込んだ。  二人分の体液がぶちまけられた体と、ボールギャグで涎まみれになった口の周りをシャワー で洗い流すと、瀬野はGパンを履いた。  「なんだ、帰るの?」  次はバスルームで楽しもうと防水性のローターを持ってきた井澤が、拍子抜けしたように言 った。  「朝まで一緒にいたいって、メールに書いてただろ」
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