第1章

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     五  「おかえり、恭一」  御崎がベッドサイドの明かりを消すと、桐野奏が布団に潜り込んできた。  「自分の部屋で寝ろよ」  「たまにはいいでしょ。何もしないからさ」  店に近い2LDのマンションで、御崎が桐野と同居を始めて六年になる。寂しがりやの桐野 は、時折御崎のベッドに潜り込んできては、「マッサージしてあげる」と、御崎の体をくすぐ り倒したり、仕事場での愚痴を延々と話し続けては、御崎の睡眠を妨げた。  「疲れてるから、俺、もう寝るぞ」  桐野が夜襲をかける前に御崎が先手を打つと、桐野は「わかってる」とつぶやいて、頭から すっぽり毛布を被った。  「わかってるなら、部屋に戻れよ」  そう言って力づくで毛布を剥ぎ取ると、桐野は背を向けたまま体を丸めていた。いつものよ うに毛布の取り合いになることを想定していた御崎は、拍子抜けして再び毛布を被せた。  「何かあったのか?」  桐野は毛布の中で小さくなったまま、力なく答えた。  「七回忌の案内状が来てたでしょ。一般の参列者みたいに、形式的なやつ」  「あんなのは事務的なもんだ。特別な意図はないさ」  御崎は、自分にも届いていたグレーの縁取りの書状を思い出した。  マンションに帰ってくると、リビングのテーブルの上に二通の案内状が置かれていた。差出 人は二通とも同じで、一通は開封済みだった。御崎が自分の宛名が書かれた未開封の封筒を手 に取り、丁寧に開封すると、そこには『園邑優斗 七回忌法要』とあった。  「もう七回忌か‥‥」  そうつぶやいた自分の言葉に、御崎は驚いた。御崎にとって園邑は、何年経とうが「もう」 と言えるような浅い関係ではない。ずっとそう思っていた。「あれから三年だぞ」「もう五年 も経っているじゃないか」などと、二人の事をろくに知らない人間が園邑の話を持ち出すたび に、心の中で「まだだ」と訂正してきた。「悪かったな」と、今にも帰ってきそうな気がして、 とても過去にする事などできなかった。そんな自分が、「もう」と言った。いつからだろう。 いつを境に、園邑は自分の心の真ん中から離れていってしまったのだろう。御崎は愕然として、 もう一通の封書に目をやった。そして桐野の中では、園邑は今も生きているのだろうかと、ふ と気になった。  「今まで何の音沙汰もなかったのが、こうして来たんだ。一緒に行こう」
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