第1章

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     六  瀬野はラビリンスの裏手にあるファッションホテルで、店で知り合ったばかりの宮部という 男のアナルにバイブを押しあてていた。使い慣れない器具に大量のローションを塗り付けてし まったためか、当たりの加減でローションが四方八方に飛び散る。瀬野の顔にも飛んできそう になり、思わず避けた瞬間、宮部の中にバイブが勢いよく突き刺さった。  「ああっ」  バイブの先端が首尾よく精嚢を刺激したらしく、宮部はよがり声を上げて、トロトロとした 精液を垂らした。そして思いも寄らぬ快感に体をヒクつかせて暫くうつ伏せていたが、漸く起 き上がると、瀬野に抗議した。  「急に挿れるなんてひどいよ」  「ごめんごめん。でも、すげえよがってたじゃん」  「確かにね。トコロテンなんて初めてだった。癖になりそうだよ」  一カ所に溜まった自分の体液に触れないようにベッドから起き上がると、宮部は言った。  「君はいいの、何もしなくて?」  「いいよ」  「若いのに気の毒だな。いつもそうなの? それとも、僕がダメだったって事?」  「違う。たまにあるんだ。気にしないで」  「僕はいいけど。気持ち良かったから」  瀬野は受ける事はできても、男を攻める事はできない。過去にどうしてもとせがまれて、相 手の手や口で試みたが、いっこうに固くならなかった。仕方なく自分の手で勃たせ、相手の尻 にあてがってもみたが、挿れる直前で萎えた。相手は怒って帰ったが、ホテルの代金を払って くれるなら、瀬野にとってはそっちの方が都合が良かった。それ以来、受けの男を優先して探 し、適当に話を合わせて誘い込むのを常套手段としていた。だが、勃たない男のために喜んで ホテル代を払う者はそうはいない。ホテル代を払ってもらった以上、それなりに奉仕しなけれ ばならないし、受けが見つからない時は攻めの相手をしなければならなかった。  シャワーを浴びた宮部は、腰に巻いたバスタオルを取ると、ブランドもののロゴが入ったボ クサーパンツに足を通した。  「もういいの?」  汚れたシーツの上に薄い掛け布団を敷いて横になっていた瀬野は、宮部に聞いた。  「今日はもう帰るよ」  「朝までOKだって言ってたじゃん」  「君が勃たないんじゃ仕方ないだろ」  「さっきみたいに楽しませてあげるのに」  「僕だけってのも、いまいち盛り上がらないしさ。まだ終電もあるし、もう帰って寝るよ」
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