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七
木浦がホテルの部屋に入ると、瀬野はナース服の女がパジャマ姿の男の上に馬乗りになって
喘いでいるテレビの画面をぼーっと眺めていた。
「こういうのってさ、どこまでマジにやってんのかな」
木浦の気配を感じて、瀬野が言った。
「マジも何も、仕事でしょ」
見たくもない女の姿を見せられて、木浦はテレビのリモコンを探しながら、そう答えた。
「だけど、好きでもない男のモノを挿れるんだぜ」
充だって‥‥。木浦は心の中でそう呟いて、リモコンの電源ボタンを押した。「あああん」
と最高潮に達した喘ぎ声が途切れ、画面がブラックアウトした。グレーのボクサーパンツ一枚
でテレビの前に座っていた瀬野は、画面が消えても同じ姿勢のまま、黒くなった画面を見つめ
ていた。
「バイトまで、少し眠ろうよ」
そう言って、木浦が薄い掛け布団を捲ると、白いシーツの上に点々とシミができていた。瀬
野の傍にいると、見たくないものを見せられる。それでも呼ばれると嬉しくて、見ないフリを
してしまう。木浦はベッドの上に放り出されたバスタオルをシーツの上に敷くと、キャラクタ
ーの描かれたレディースのボクサーパンツ姿になってベッドに入った。
「充、寝ないの?」
「ああ」
木浦の声に漸く気づいて瀬野がベッドに潜り込んだ時、メールの着信音が鳴った。井澤から
だった。
『例の店の予約が取れたけど、どうする? 行きたいなら、明日の夜、空けておいて』
例によって取引のような内容に、瀬野は苦笑した。あくまでも合意の上で、好き放題するつ
もりだろう。いつもならすぐにでも削除するのだが、瀬野はどう返信すべきか考えていた。
三日前、瀬野はあの店に行った。開店前の時間を狙い、御崎に直接頼むつもりだった。だが、
専用エレベーターはロックがかかっているらしく、ボタンを押しても動かない。そこでエレベ
ーターの前でしばらく待っていると、助手の高見が出勤してきた。
高見は瀬野の姿を認めると、あからさまに嫌な顔をした。会員制のこの店で、それ以外の訪
問者は面倒な依頼主である事が多い。しかも相手はアダムに巣食う男あさりの常習者だ。高見
は警戒しつつ、営業スマイルをつくって聞いた。
「何か御用でしょうか」
「御崎さんに話があるんだけど」
高見が来た事にがっかりした瀬野は、愛想なく答えた。
「申し訳ございません。御崎はまだ出勤しておりません」
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