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井澤によれば、あの店は元々リフォーム関連のショールームだった部屋を雑居ビルの所有者
がマッサージ店に改装したという事だった。施術は基本的に御崎が一人で行っており、客同士
が顔を合わせることがないため、いつしか店の存在を知る者の間で会員制の秘密の高級マッサ
ージ店として認識されるようになったらしい。そんな話をし終わる頃には、井澤はバスローブ
姿になっていた。
「だけど残念ながら、エッチはできないんだな。どれだけ金を出すと言っても、御崎君が首
を縦に振らない」
井澤はそう言って、瀬野の隣に座った。井澤の体が熱を発しているのだろう。井澤の座った
側の体感温度が急に上がった。
「あの御崎って人のマッサージ、すげえ気持ちよかった。俺、完全熟睡しましたよ」
キスより先を急かしそうな井澤の雰囲気に先手を打つように、瀬野はさらにあの店の話題を
持ち出した。
「御崎さんって、有名な人なんですかね。あの助手の人、大先生みたいな扱いしてたけど‥
‥。あっ、それともオーナーだから機嫌損ねないようにしてるのかな‥‥。あの人、何歳くら
いかな。そんなに年取ってるように見えないけど‥‥。でも、あの若さでオーナーとかだった
らすごいよね。自分の腕一本で高級店を経営するなんて、尊敬するよな‥‥」
妙に饒舌になった瀬野の唇を今度は指で塞ぎ、井澤は焦らすなとばかりに、瀬野のTシャツ
の裾を捲り上げた。
「オーナーは雑居ビルの所有者だよ。大手企業の会長で、不動産とか飲食業とか手広くやっ
てる。なのに、予約が取れないほど儲かってる店をチェーン展開しないってのは、経営者とし
てどうなのかね。何か理由があるのかもな‥‥。そんなことよりさ」
井澤が瀬野の体からTシャツを剥ぎ取り、細身の割に厚い胸板を撫で回した。
「そんなに彼の事が気になる? 君は今、僕とデートしてるんだよ。君が興味をもつべきは
僕のことだろ。僕の体とか、僕たちの相性とかさ。僕はもう、君の体を早く味わいたくて涎が
出そうなの、我慢してるんだぜ」
井澤の目に、軽い嫉妬と強い欲望が表れる。
こいつはヤバい!
瀬野の背筋に悪寒が走った。
近くに仕事部屋があると聞いたとき、瀬野は一瞬迷った。高級マッサージ店を利用している
井澤がホテル代をケチるわけがない。とすれば、今夜は特殊なプレイが待っている可能性が高
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