第1章

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scene:難民  「ここは――?」  テオドールは目を覚ました。額には生温いながら濡れたタオルが置かれている。目ヤニで汚れた瞼が睫毛を引き千切るような音も聞こえる錯覚と微睡みの中、薄汚れた視界で見付けたのは自分を覗き込む影達だった。  「vんdぬあlhふぁ?」  「は?」  声のする方に視線を向けると、切れた襤褸布のようなフードを被った数人の異世界人がいた。耳にまるで馴染まない音が何かを問いかけている内容だと気付いたのは、アクセントが最後の方で不自然に上がり、且つ心配そうに見つめる彼らの表情から推測出来たものだった。  「そうか、ここは異世界か」  肩の荷が下りたかのような溜息を零した直後、不意に大きな悲しみが襲って来た。アニエスが殺された。レオナールが殺した。裏切り者……くそ、何だ、どうしてあんな事に。テロリストだったのか。それとも米軍だったのか。もはや問い掛けるのが精一杯で誰かの応えは期待出来ない。そもそも自分は異世界のどこに来たのか。鈍重な身体を起こしたテオドールは、涙で濡れる顔も拭わぬまま、心配そうに見つめる異世界人の後ろに広がる世界へ意識を向けた。  「しかし、これは――――」  荒涼とした大地の上に無数のテントらしきものが並んでいる。ひとつやふたつではない。何百……いや、何千とあるかも知れない。遊牧民と言う事はないだろう。やせ細ってはいないが、見える人々の殆どは疲れ果てている。格好は小汚く、凡そ衛生的な環境にあるも思えなかった。全体に漂う重々しい雰囲気は、かつて医療団として赴いた事もある難民キャンプのそれにそっくりだった。  「難民キャンプのような所なのか?」  異界人と思しき数人が顔を突き合わせ、何事と話している。時には指を差し出し、遠くを望みながら。テオドールも異界の言葉には詳しくない。彼らが何を話しているのかは分からなかった。身振り手振りで意思の疎通を図ろうにも思うようにいかなかった。  「hfkhkn luekvjblue?」  少しばかり英語のようなアクセントも聞こえたがまるで文法にならない。兎に角、何かの情報を得たいと伝えようとするテオドールにひとりの老父が近付いてきた。  「vんfぁんヴふぇw」  何事を優しく語る老父から差し出される手の上にはパンらしき塊が乗っていた。  「げjっぃvkn」  「食べろと言っているのか?」
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