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怒鳴られているのが分かった。列に割り込むな。と言いたげな口調と、非難するような鋭い視線。とは言え、目的が違うのだ。多少は目を瞑って欲しい。しかし、綺麗な隊列が見える。充分に発展しても文化的な、或いは慣習的なやり方はなかなか変わらないものだ。取り分け、極端な人種が共存する、事ここに限ったコミュニティで、このような秩序が維持されている事は、それなりに精神的な発達が進み、文化水準に伴い各人の教育も優れている事が予想され、即ち、この先に何らかの支援団体の窓口となる人材がいるだろう事をテオドールに期待させた。
「vんkせうhbぅんらhんv!?」
今度は亜人とぶつかった。その巨体は優に二メートルを超えるだろうか。昔に見た狼男を彷彿とさせる。あまりの体重差があったのか、一方的に弾かれる形となったテオドールは尻餅を突いてしまった。
「fvlkんzづzn?」
見上げた狼男がこちらを覗いていた。
「す、すみません」
やはり伝わっているかは分からなかったが、あまりの迫力に思わず飛び出すように謝罪の言葉が口を衝いた。
「vべうz、kjbvfんd。う……Dez、Why――、た、てるか?」
「????」
「立てるか?」
「????」
「これなら伝わるかと思ったんだが……」
獣と同じような見た目通り、表情筋が乏しいのか狼男の感情は読み取れない。が、不意に耳へ聞こえてきた言葉は、馴染んだ母国の言葉だった。
「言葉が分かるのか?」
「あぁ」と頷いた狼男は、テオドールの手を引っ張った。
「悪かったな。しかし、向こう側の人間がいるとは。ま、この混乱だしな」
「ここは何処なんだ?!」
急に張り上げた声に周囲の視線が集まる。
「おい、落ち着けよ」
狼男は戸惑った。
「教えてくれ! 帰りたいんだ、元の世界に!!」
突如として目の前に舞い込んだ機会に縋りつくテオドールの必死さに狼男も気圧される。
「落ち着けって。ったく、久しぶりに向こう側の人間がいるなと思って声を掛けてみれば……」
「あぁ、……すまない」
どうやら本当に配給の列だったらしい一群から離れた狼男は、テオドールを適当な瓦礫の上に座らせると、彼の気持ちが落ち着くまで暫くの沈黙を続けた。
「改めよう――私はテオドール。地球の、向こう側のアメリカと言う国の人間だ」
「自分はジェイカだ」
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