第1章

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 握手を組み交わしたテオドールは、ジェイカに幾つか質問した。ここは何処なのか、何が起きているのか、向こう側に帰る為の扉はあるのか、何故向こう側の言葉が話せるのか、どうして自分が向こう側の人だと知ったのかなど、欲求の趣くままに真相に対する回答をジェイカに要求した。  真直ぐな狂気と情熱、そして焦燥に見舞われるテオドールに呆れながらもジェイカは答えられるものには誠実な返答をくれた。ここは中立地帯からやや≪#&$≫の領土に近い場所。≪○。/】_≫の副次的な災害に巻き込まれた難民が駐留している場所だった。  「扉はない。少なくとも勝手な出入りができるような物は、な」  「こっちでは、扉はどういう扱い……存在なんだ?」  全ての始まり……いや、正確を記せば、向こう側の世界を取り巻く状況の理由、契機にもなった原因でもある扉が、こちら側ではどのような存在なのか、テオドールは気になった。  「国境だよ。ただの。厳重な警備と、厳粛な手続きがあり、無視すれば厳刑も辞さない、厳存するただの扉だよ」  全くの未知の存在だった扉が、こちら側ではまるで宗教的な意味を持たない事にテオドールは少しばかり驚くと同時に拍子抜けした。  「どうすれば帰れる?」  「簡単に帰れる者もいれば、自由に行き来できる者もいる。一概に、一応の定義が付けられるものじゃない……」  「そう――なのか?」  「らしい。こっちでは扉に感けていられるほど、今は平和な世の中でもないんでな」  尤もな皮肉に、テオドールは苦笑した。  しかし、分からない事もある。いや、気付いたと言うべきか。――こちら側の人間を愚弄する訳ではない。全く見下すような心持がない。とも言い切れない。が、ジェイカの説明には節々の知性が感じられた。  「詳しいな。こちら側の人はみなそのような知識を持っているのか?」  「いや、昔にな。アンタが言うところの向こう側の人がこっち側に落ちてきてな。その人の手伝いをやらされてな。そっちの言葉とかも、その時に覚えたんだよ」  「どうすれば良い?」  「帰りたいって訳だろ?」  腕を組んだジェイカが首をひねる。  「難しいな……。お嬢も結局は帰る手段を特定、と言うか体系化するまではいかなかったしな。まぁ、自分が手伝ってた当初の話だが」  「お嬢?」
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