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協力した人物の表し方から、どうやらその人物が若い女性らしい事が読み取れ、且つジェイカが親近感を抱いてのだと想像出来る。
「あぁ、今以てあの変な名前も覚えてる。それに、つい最近の出来事のように思い出せるよ。それくらい長い付き合いになったし、色々とあったからな」
感慨深げに、と同時に郷愁に浸るような視線でそう告げたジェイカにテオドールは、そのお嬢について聞いてみた。
「名前か……。フェアフィールドを名乗っていた。英語でfair、field。公正な土地と言う意味なのだろう? 本名かどうかは知らないが、そいつは両世界を結ぶ懸け橋になると宣っていたよ」
「フェアフィールド……」
「ペンネームだ。自分はお嬢と呼んでいたが、名前は別にある」
勿体ぶった言い方に苛立つ一方で、テオドールは冷静さも取り戻していた。焦っても仕方ない。という諦めが沸き起こる一方で、徐々に徐々に頭も回って行った。
「その人の行方は?」
「さぁな。アンタが同じように向こう側とを繋ぐ方法を解明しようとすれば、何れ会う事もあるだろうよ」
首を振ったジェイカが付け加える。
「後に続くだろう向こう側の人間にたいし、自分は最先端を歩く義務がある、とか」
「そうか」
収穫はなし。取り巻く状況が分かっただけである。絶望するほどではないにしろ、楽観的になれるほど先に光明が見えている訳でもなかった。テオドールは向こう側に置いて来てしまった、置かざるを得なかった、放置してしまった諸々の事情は、向こう側で解決していると信じ、自分は自分に出来る事に集中しようと思った。勿論、願わくば、機会があれば、向こう側へ帰りたいという想いは変わらずである。
「しかし、君は何で私が向こう側の人間だと分かったんだ?」
再び配給の列に戻る中、テオドールはその他に気になった事についても訊いてみた。
「あぁ、それか」
ジェイカはテオドールに向けて指を突き出した。
「こっち側にお前のようにやや緑がかった蒼い目の人間はいないんだ」
「そ、そうなのか」
「気を付けろよ」
「何をだ?」
「ここら辺は≪○-|≫と≪#&$≫が共存しているから人種差別などないが、場所によっては差別の対象にもなる。向こう側の人間と知れれば問題もあるだろうしな。何よりも注意すべきは、その目に資産的な価値があるって事だ」
「価値?」
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