第1章

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 テオドールは少年の腕を隠すボロ布をまくり、爛れた患部に触れた。ねっとりとした白い膿のような体液が見える。血と言うよりは鉄錆に似た分厚い独特な角を立てた瘡蓋が幾重にも乗っていた。皮膚は乾燥しており、痩せた肉の下の血管が黒っぽい色で浮かび上がっている。よく見れば皮膚の色が悪い。汚いと単に表するに違和感のある個所が目立った。瞳の色が濁っている。息も臭い。僅かに覗いた舌苔も黄緑と思しき色に染まっていた。  「二週間くらい前からあるってよ。こっちに避難してから暫くしてからに出来た傷だって言ってるけど。……で、それが何だってんだ?」  「感染症だ」  「は?」  「知ってるぞ、私はこれと同じ症状を別の難民キャンプで見た事がある!」  少年の腕を強く握ったテオドールが遠くを望む。  「この集団の代表か、支援団体の人に会いたい! 潜伏期間を考えれば感染源が近いかも知れない!」  「どう言うこった? 感染症って何だ?」  「バクテリアの一種だ! 水などで感染、蔓延する! 潜伏期間は一週間から二か月か三か月。年齢が若いほど発症が早く、青年くらいをピークにまた期間が短くなる。向こうで見付かった新種だよ!」  バクテリアが宿主の何を基準に潜伏期間を決定しているのかはまだ分かっていない。幾つかの仮説はあるが、脳内の物質の多寡で動きを決定しているらしい節が見込まれている。活動範囲の狭い若い、或いは老いた人物はコミュニティー内にいる事が多い為、効率よく他への感染が可能であり、逆に活動範囲の広い青年から成人では遠くへ移動する事を目的に潜伏期間を長くしているとの予想が立てられた新種のバクテリアだ。一説では生物兵器の噂も聞こえたが、飽くまでも噂だ。ただ共通しているのは汚染のひどい水辺での生息が確認されている。
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