シナモンクッキーに幸あれ【試し読み】

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 青樹の後ろ姿は遠目でも分かった。人通りが少なかったからではない。彼女が目立った格好をしていたからでもない。その時、俺はちょうど彼女のことを考えていたのだ。  私服姿を見るのは初めてだった。淡い緑のセーターに白いスカートを着た青樹は、肩に届きそうな黒髪をふわふわさせながらご機嫌に歩いている。  俺は右手に持っていたレジ袋を見やる。先ほどスーパーで買ったシナモンパウダーだった。  家でクッキーを作っている最中だった。キッチンにはボールに入ったクッキー生地が放置されている。美味しいクッキーを作るためには早急に帰宅した方が良いのだが、俺は青樹と話をしたかった。こんな場所で青樹に会うのは珍しかったので、彼女が何をしているのか気になったのだ。  気づけば俺は、竜見町一丁目の交差点で信号待ちをしている青樹の隣にいた。シナモンパウダーの小瓶をジーンズのポケットにしまう。 「青樹」  そっと呼ぶと、彼女はようやく俺に気付いたようだ。バインダーを片手に多色ペンを揺らしていた彼女は、俺を見上げてぱっと笑った。 「あっ、池知くん。ちょうど良い所に」 「こんにちは。こんな所で何してるんだ」
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