シナモンクッキーに幸あれ【試し読み】

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 確か青樹の家は北区だった。ここは南区で、二キロ程離れているはずだ。 「今日は街中を歩くって決めたの。調べたいことがあってね」  彼女は嬉しそうに、持っていたバインダーを俺に見せた。そこに留められていたのは、この街の白地図だった。既に赤や橙の描き込みがある。 「この街の春を追いたいの。池知くん、もし良ければ、手伝ってくれないかな?」  信号が青に変わり、周りの人々がざわざわと交差点を渡り出す。  俺はもう一度、心の中で、青樹の笑顔とシナモンパウダーを天秤に掛けてみた。しかし、そもそも重さを計れるはずもなかった。俺が作ろうとしていたシナモンクッキーは、青樹に渡すためのものだったのだから。 「……三十分だけな」
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