『ジャッカロープ』

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 名護は首を振っていた。 「……しょうがないです。俺は、初めて振られましたよ」  どういう意味であろうか。俺が慌てて名護を見ると、名護は苦笑いしていた。 「私と印貢先輩のどっちが大切!ですよ。迷いなく返答してしまいまして」  平手打ちされて、別れの啖呵をきられたらしい。 「ごめん」  謝る他はできない。 「まあ、本音ですから。スッキリしましたよ。それに報酬は、印貢先輩と泊まりですよ。選ぶまでもない」  港に車がやって来ると、佳親が飛びだした。俺は船が出航している事を確認すると、佳親に走り寄った。 「父さん、どうにか解決しましたので」  佳親よりも先に、季子が飛びついてきた。 「弘武君、どこにも行かないで!」  希子というのは、こんなに小さかったのであろうか。俺よりも、ずっと小さかった。 「どこに行っても、ちゃんと帰ります」  こんなに小さい人を、俺は泣かしてしまったのか。佳親は、季子ごと俺を抱き込んでいた。 「全く、心配させるな。家の前の道で拉致されたなど、近所でも大騒ぎだよ」  藤原親子も見守っていた。そこに、相澤の姿も見えた。相澤には、死霊チームの子供の説明をしなくてはいけないだろう。 「相澤……」  でも、相澤は車に乗ると帰ってしまった。  家に帰ると、再び、部屋で喧嘩になった。やはり、俺が倉庫の上というのが、佳親にも季子にも耐えられないという。  眠りたいと部屋に戻ると、春留は既に眠っていた。  携帯電話を見ると、ホーから、どうにかなったとの連絡があった。ホーも無事でよかった。  畳に布団を敷くと、転がってみた。やはり、人体実験は間違っている。  でも、俺も本来は生まれない、佳親と季子の子供であった。 「母さん……」  春留が寄ってくると、俺の隣で止まった。春留は、何から生まれたのであろう。春留の孤独も、果てしない。 「春留、ジョッピングセンターで、おいしいキャベルを買ってくるね」  春留もよく活躍してくれた。  人の遺伝子を持つ生き物、それは、本当に生存しているのは三体であるのか。春留の知らないどこかに、まだ生存しているのではないのか。  でも、そっとしておいた方がいいのか。  飼い主を待ち続けているモモウサも、こうして俺の元にやってきた春留も、必死で生きている。 「おやすみ、春留」  混じっていても、生きている。 『ジャッカロープ 了』 
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