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でも、母が生きていた頃は、毎年、墓参りついでに海でも遊んでいた。母の弟が実家を継いでいたせいか、ここには正月にも時々帰ってきていた。宿泊は、海の近くにある国民宿舎を利用していた。
「懐かしいですか?」
窓を見つめる俺の横顔を、名護が見ている。
「懐かしいというよりも、何か不思議。別世界を見ているみたいだ」
母子で全世界であったのに、今は、別の土地で両親と兄弟と、仲間と暮らしている。母に手を引かれて歩いた道も、全く別の道に思える。
「……国民宿舎だ」
その先に、海鮮料理の店があるのだ。
「昼飯!」
「はい。予約しておきました」
名護の言葉に、俺は名護が見ていた端末を見た。そこには、メニューも載っていて、伊勢海老フライを人数分ほど予約していた。
「愛洲さんより、印貢先輩の予算も確認しました。他に刺身と、焼き魚をつけています」
名護に金額を見せられると、確かに予算ピッタリであった。
「ご馳走してくれるのでしょ?」
「そうだけど、名護……確信犯だよね」
名護は、他に近所の土産も用意していた。
「伊勢海老のみりんせんべい」
確かに、俺はみりんせんべいをよく食べている。
「死霊チームのメンバーが、土産と言っていました」
全員にみりんせんべいを購入したいが、死霊チームとは何人いるのだろう。
「死霊チームって何人いるの?」
「五百人くらいでしょうか」
そんなにいるのか。小学生と中学生、まさか幼稚園生もいるのであろうか。
全員分のお土産など、考えられない分量であった。
「大丈夫ですよ。印貢先輩はお土産を選んでくれればいいです。俺が購入して、別便で送りますから」
それでも、五百人分の土産というのは想像できない。
「到着しました」
海鮮料理の店は、海の家のような建物と、四階建ての宴会場に別れる。俺は、海の家のほうで食べていたが、名護が予約したのは、宴会場の方であった。
宴会場の奥が和室の個室になっていて、その部屋を予約していた。
「海が見えるし、静かでいいでしょ」
確かに、障子を開くと海であった。通りを挟んで、砂浜も見えていた。
「さてと、伊勢海老フライね」
ドンと乗せられた伊勢海老フライは、かなり巨大であった。
「印貢先輩が、内緒でバイトしてくれていたというのが、嬉しいですよね」
名護が、丁寧に伊勢海老に挨拶すると食べ始めていた。
「印貢先輩、俺、誕生日には腕時計が欲しいですよ」
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