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「でな、ごめん印貢。もうバイトはしないで。俺も名護も、心配で、心配で。毎日、様子見に行ってしまっていた。俺たちが寝不足になる」
毎日、覗いていたのか。
「藤原、そういう心配は無用だよな」
互いに心配は止めた筈だ。藤原の家など、時折、鉄砲玉もやってきている。心配を始めたら互いにきりがないので、止めにしていた。
「分かっているけどさ。印貢、自分の外見を知らないからさ。印貢は、夜道を一人で歩けるレベルじゃないぞ、その容姿であの誰もいない道を歩くなんて、犯罪者が増加する」
俺は、藤原の前で、両手をストレッチしてみる。殴るにも、やはり、準備運動が必要であろう。
「待った!悪かった!」
俺は藤原を殴ると、名護を見た。名護は、堂々と立っている。
「すいません、心配しました」
頭を下げて謝られると、殴れない。
「……もう、俺の心配はしなくていいからな」
「嫌です」
やはり、殴りたい。
「金が無いなら、俺が稼ぎます。だから、もっと死霊チームと一緒にいてください」
バイトで、死霊チームと疎遠になったのだろうか。そう考えてから、元々、交流が少なかったと思い直す。
「それは、死霊チームの会合とかに行けばいいの?」
五百人とどう交流するのだろうか。
「俺と、もっと一緒にいてください」
それならば、出来そうだと言い掛けて、俺は藤原に睨まれていると気がついた。
「では、一緒に勉強しよう。俺の家に来てもいいよ」
名護の家に行っていたのでは、佳親も、藤原も心配しそうだ。
「はい」
名護が、藤原を見ないようにしながら頷いていた。
伊勢海老フライを食べ終わると、浜辺では征響達がサッカーしていた。時計を見ようとして、名護にあげてしまった事を思い出し、壁の時計を見る。
マイクロバスは昼頃に到着すると言っていたので、まだ墓に行くには早い。
「印貢、ここ兎がいるのか?」
海鮮料理の店は、背を崖にしていた。窓から見上げると、崖の上の方に白い影が見えた。
「兎はいるかもしれないけれど……」
木の枝がそう見せるのかもしれないが、兎の耳が木の枝のように見えた。それは、鹿の角に類似している。
「あれは、何だ?」
相澤も窓を見上げて、考え込んでいる。
「ジャッカロープ?」
ここには、鹿はいない。だとすると、あの生き物はやはり兎なのであろう。
「この上って、行く寺だよね」
兎の正体を、突き止めなければならない。
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