『ジャッカロープ』

12/40
前へ
/40ページ
次へ
「でな、ごめん印貢。もうバイトはしないで。俺も名護も、心配で、心配で。毎日、様子見に行ってしまっていた。俺たちが寝不足になる」  毎日、覗いていたのか。 「藤原、そういう心配は無用だよな」  互いに心配は止めた筈だ。藤原の家など、時折、鉄砲玉もやってきている。心配を始めたら互いにきりがないので、止めにしていた。 「分かっているけどさ。印貢、自分の外見を知らないからさ。印貢は、夜道を一人で歩けるレベルじゃないぞ、その容姿であの誰もいない道を歩くなんて、犯罪者が増加する」  俺は、藤原の前で、両手をストレッチしてみる。殴るにも、やはり、準備運動が必要であろう。 「待った!悪かった!」  俺は藤原を殴ると、名護を見た。名護は、堂々と立っている。 「すいません、心配しました」  頭を下げて謝られると、殴れない。 「……もう、俺の心配はしなくていいからな」 「嫌です」  やはり、殴りたい。 「金が無いなら、俺が稼ぎます。だから、もっと死霊チームと一緒にいてください」  バイトで、死霊チームと疎遠になったのだろうか。そう考えてから、元々、交流が少なかったと思い直す。 「それは、死霊チームの会合とかに行けばいいの?」  五百人とどう交流するのだろうか。 「俺と、もっと一緒にいてください」  それならば、出来そうだと言い掛けて、俺は藤原に睨まれていると気がついた。 「では、一緒に勉強しよう。俺の家に来てもいいよ」  名護の家に行っていたのでは、佳親も、藤原も心配しそうだ。 「はい」  名護が、藤原を見ないようにしながら頷いていた。  伊勢海老フライを食べ終わると、浜辺では征響達がサッカーしていた。時計を見ようとして、名護にあげてしまった事を思い出し、壁の時計を見る。  マイクロバスは昼頃に到着すると言っていたので、まだ墓に行くには早い。 「印貢、ここ兎がいるのか?」  海鮮料理の店は、背を崖にしていた。窓から見上げると、崖の上の方に白い影が見えた。 「兎はいるかもしれないけれど……」  木の枝がそう見せるのかもしれないが、兎の耳が木の枝のように見えた。それは、鹿の角に類似している。 「あれは、何だ?」  相澤も窓を見上げて、考え込んでいる。 「ジャッカロープ?」  ここには、鹿はいない。だとすると、あの生き物はやはり兎なのであろう。 「この上って、行く寺だよね」  兎の正体を、突き止めなければならない。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加