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「……はいはい、行きたいのね」
相澤は立ち上がると、大きく伸びをして車に向かった。しかし、相澤が、途中で振り返る。
「本当に印貢、会計は大丈夫なの?」
伊勢海老フライに、伊勢海老の刺身も食べていた。
「大丈夫ですよ。俺が稼いだ金で奢りたいと思っただけで、ホーからも無理するなってカードを渡されているし」
人に、見せられないカードであった。このカードは、ゴールドカードの上をいくと言われている代物ではないのか。
「大丈夫ならばいいけど。ごちそうさま」
会計を済ますと、外に出て兎を確認してみた。征響もやって来ると、崖の上を見る。
「あれ、兎なのか?」
「その正体が知りたくて見ていました」
秋里が地図で崖の上を確認している。やはり、崖の上は寺の敷地に近かった。道のりで行くと、崖を迂回して走るので、かなり距離はある。しかし、崖を真っ直ぐに登れば寺に近い。
「登れるかな……」
倉吉は、崖の高さと土の状態を確認している。
「いや、木の状態がしっかりしていれば、登れますけど」
俺の場合は、ワイヤーを張るので、木さえあればいい。
「しかし、あの兎、こっちを見ているよね」
毛並みからすると、生きている艶がある。剥製のサバサバした毛並みではない。
「まさか、こっちを餌みたいに見ているとか」
多分、兎なので草食だと勝手に考えていたが、まさか肉食なのであろうか。
「じゃ、登るか」
あっさりと倉吉は言ったが、俺は登るつもりはなかった。
「途中で、墓参りの花を購入しようと思っていたのですが」
この先に道の駅があるので、そこで墓に供える花を購入しようとしていた。
「ああ、買っておくよ」
相澤が欠伸をしていた。相澤は、早く寺に行きひと眠りしたいらしい。高校生ばかりを乗せていたので、運転をする代わりがいなかった。
「……では、母の好きな花をお願いします」
花代は封筒に入れて別にしていた。母は、花が好きであったが、菊が嫌いであった。
封筒には、花の写真がプリントされている。そのプリントされた花が、母の好きな花であった。俺が、花の名前を憶えられないので、母が生前に封筒を作り用意したのだ。
「お母さん、封筒を用意していたの……」
他にも、些細な事は用意していた。自分の供養の段取りや、支払いなども済ませていた。
「菊だけは、どうにも嫌だったみたいです」
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