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どうして菊が嫌いなのかは、母に聞くと半日は喋っていたが、理解が出来なかった。ざっくりまとめると、家族の誰かが菊を育てていたかららしい。品評会に出す菊で、家族旅行よりも菊、行事よりも菊が優先されていた。それで、母は、菊に恨みがあったらしい。それを、旅行毎、行事毎の出来事で喋るので時間がかかる。
「……菊は避ければいいのか」
花代の入った封筒を相澤に渡すと、俺は崖の頂上付近を見た。
これで崖を登れる。
頂上付近に、なにかの建物の足が見えているので、木よりも建物にワイヤーを掛けた方がいいだろう。
登るのは、落ちさえしなければ、難しいことではない。しかも、藤原がジャッカロープに興味を示していたので、密かに準備をしていた。
「藤原は、どうする?相澤さんと花を選んでくる?」
天狗の運動神経ならばいいが、これは普通の人間にはきついだろう。藤原も普通ではないが、それでも天狗ではない。
名護は、木の配置を憶えると、ワイヤーなしでも登れると呟いていた。
「確かに、これは俺にはきついよね。直角どころではないし。相澤さんと行くよ」
藤原も無理はしない。
「派手な花が好み」
藤原が手を振って車に戻って行った。
地上の民家を避けて、上の建物に向けてワイヤーを投げる。すると、名護が既に登っていて、ワイヤーを建物に固定してくれた。
「名護、いつ登った」
ビルも平気で上る死霊チームにとっては、崖も地面と同じらしい。
「固定しました!」
俺も、名護のように木だけで登ってみたい気もしたが、ワイヤーも試してみたかった。
「行くぞ!」
ワイヤーの巻き上げボタンを押すと、自動で上に上がる仕組みなのだ。
「楽チン」
これならば、藤原でも楽勝で登れたかなと思った瞬間、勢いよく巻き上がり俺は崖の空中に飛ばされていた。
「うわああ」
崖の外側に投げられていたので、慌てて別のワイヤーを飛ばした。建物にワイヤーをかけて、ブランコの要領で崖方面に方向を変えてみた。
崖の上では、名護が手を伸ばしていた。
「印貢先輩!」
名護がグローブをした手でワイヤーを操り、俺は崖の上へと落ちた。
「ありがとう。名護」
名護もどっぷり疲れていた。
「……ウエイトの調整が雑なのですよ」
名護は、巻き上げ機を調整すると、下に落としていた。下では、秋里が動作を確認していた。
「周囲が全部空で、かなり驚いた。でも、気持ち良かった」
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