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でも、窓から見える海は広い。海から吹き付ける風も強いが、塩っぽさも凄かった。たまに来るにはいいが、住むのは難しいだろう。
「弘武、兎はいたのか?」
そうであった、ここに来た目的を忘れてしまっていた。ここには、ジャッカロープを捜しに来たのだ。
征響は小さな庭の、草木の中を探していた。家の横に、元菜園のような場所があり、そこに草が生い茂っていた。小さなスペースだというのに、草の生命力は凄い。
草が激しく風に揺れていたので、もしかして、兎も草の見間違いだったのだろうか。
下の建物の位置を確認すると、兎のいた場所の検討をつける。
「庭の隅くらいかな」
草に隠れて崖の端が見えない。案外怖い菜園であった。
「何も居ないよね」
でも、風とは異なる動きで、草が揺れていた。
「それ、何だろ?」
倉吉が、命綱?の秋里の腕を掴んで、草むらに手を伸ばしていた。蛇などであったら、咬まれる危険性もある。
「ここ、蝮はいるのかな?」
「ぐにゃりとしていて、温かい……」
蛇は温かくはない。倉吉は秋里の腕を離すと、両手で何かを持ち上げた。
「これは、何だ?」
これは、何なのであろう。生き物には違いないが、見た事がなかった。一番近いものは、やはり兎であった。しかし、子犬程も大きさがあり、ものすごく太っていた。
俺も近寄って持とうとしたが、米の袋よりも重い。でも手触りも兎であった。顔が大きく、俺の顔程もあった。二重顎で、傍で騒いでいるのも気にせずに、草を食べていた。
「兎でいいのかな?」
頭に角は生えていないが、耳が大きく、しかも切れてしまっていた。遠くから見たら、色的には枝のようにも見える。崖から落ちて、耳が千切れてしまったのか、顔の側面にも大きな傷跡があった。
「大丈夫か?」
俺が撫ぜてやると、草を食べるのを止め、俺に背を向けた。
「うざいの?」
今度は、俺に向かって糞をしている。
「……黒豆は嫌いになりそうだよね」
この小さな菜園で、この兎は生きてきたのかもしれない。でも、上から落ちたとすると、上には仲間がいるのだろうか。
上を見ていると、何かが落ちてきた。小さな粒であったので、糞が落ちてきたのかと思ったら、小石であった。
「なあ、俺が一人で墓参りに来た時、一緒に行ってくれたのは、君?」
兎は草を食べていたが止め、急に走りだした。
「どうしたの?」
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