『ジャッカロープ』

17/40
前へ
/40ページ
次へ
 兎を追いかけていると、足を滑らせてしまった。やはり、草の下には何があるのか分からない。 「弘武!」  征響が走り寄って、俺の腕を掴む。でも、俺は落ちるのではなく、落ちた先の地面に足をついていた。 「ここに通路があります」  木の後ろ、草むらの中に隠れて、穴があけられていた。人が通れる広さがあって、向かい側の光が見えていた。 「反対側に抜けられるようです」  反対側に何があるのか分からないが、この建物への通路であろう。 「行ってみます」  洞窟の地面は見えている。反対側に飛びださなければ、落ちはしないだろう。それに、前にデブ兎が歩いていた。 「弘武、気を付けろ」  あの兎に行けて、俺に行けないことはない。何しろ、兎の全速力は時速一キロあたりであった。  しかし、洞窟の底はやや濡れていて、苔も多かった。滑ると、足元にも壁にも苔があって、ぬるぬるで立てなくなりそうだ。  兎は平気で歩いているが、そもそも兎は四つ足であった。二本足とは、安定性が違う。 「モモウサ待って」  兎とはやや異なる形状であるので、名前を付けてみた。桃から生まれた、桃のまんまの体形の兎という設定で、モモウサと呼んでおこう。 「モモウサ!滑る」  モモウサと呼ぶと、兎が立ち止まるので不思議であった。まさか、本当にモモウサという名前なのだろうか。 「抜けた!」  洞窟を抜けると、どこかの森になっていた。携帯電話で、GPS情報を見ると、近くに道がある。 「征響、この洞窟は抜けられる」 「弘武、変に動くなよ」  道の先に寺があるので、登坂の中腹にいるのだろうか。崖を背にしているので、崖に落ちるという事はないであろう。  道路を前にした森は、保護区になっていた。  このモモウサの仲間がいるのかと思っていたが、そこに生き物は何も居なかった。 「モモウサ、寂しかったのか?」  だから、崖から下を見ていたのか。モモウサは顔を背けると、又、洞窟に向かって時速一キロで走っていた。 「弘武、動くなと言ったろ!」  征響に蹴られる予感がしたので、走って道路に飛び出る。すると、バイクに惹かれそうになった。 「すいません」 「弘武、道路に飛び出すとは、園児か!」  再び征響に蹴られそうになって、反対側の森に飛び込んだ。 「征響が蹴らなければ、逃げません」 「蹴られるようなことをするな!」
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加