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兎を追いかけていると、足を滑らせてしまった。やはり、草の下には何があるのか分からない。
「弘武!」
征響が走り寄って、俺の腕を掴む。でも、俺は落ちるのではなく、落ちた先の地面に足をついていた。
「ここに通路があります」
木の後ろ、草むらの中に隠れて、穴があけられていた。人が通れる広さがあって、向かい側の光が見えていた。
「反対側に抜けられるようです」
反対側に何があるのか分からないが、この建物への通路であろう。
「行ってみます」
洞窟の地面は見えている。反対側に飛びださなければ、落ちはしないだろう。それに、前にデブ兎が歩いていた。
「弘武、気を付けろ」
あの兎に行けて、俺に行けないことはない。何しろ、兎の全速力は時速一キロあたりであった。
しかし、洞窟の底はやや濡れていて、苔も多かった。滑ると、足元にも壁にも苔があって、ぬるぬるで立てなくなりそうだ。
兎は平気で歩いているが、そもそも兎は四つ足であった。二本足とは、安定性が違う。
「モモウサ待って」
兎とはやや異なる形状であるので、名前を付けてみた。桃から生まれた、桃のまんまの体形の兎という設定で、モモウサと呼んでおこう。
「モモウサ!滑る」
モモウサと呼ぶと、兎が立ち止まるので不思議であった。まさか、本当にモモウサという名前なのだろうか。
「抜けた!」
洞窟を抜けると、どこかの森になっていた。携帯電話で、GPS情報を見ると、近くに道がある。
「征響、この洞窟は抜けられる」
「弘武、変に動くなよ」
道の先に寺があるので、登坂の中腹にいるのだろうか。崖を背にしているので、崖に落ちるという事はないであろう。
道路を前にした森は、保護区になっていた。
このモモウサの仲間がいるのかと思っていたが、そこに生き物は何も居なかった。
「モモウサ、寂しかったのか?」
だから、崖から下を見ていたのか。モモウサは顔を背けると、又、洞窟に向かって時速一キロで走っていた。
「弘武、動くなと言ったろ!」
征響に蹴られる予感がしたので、走って道路に飛び出る。すると、バイクに惹かれそうになった。
「すいません」
「弘武、道路に飛び出すとは、園児か!」
再び征響に蹴られそうになって、反対側の森に飛び込んだ。
「征響が蹴らなければ、逃げません」
「蹴られるようなことをするな!」
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