『ジャッカロープ』

18/40
前へ
/40ページ
次へ
 森を走り抜けていると、寺の屋根が見えてきた。寺は崖の上でも、登りきり少し降りた先にあったらしい。  寺の屋根に飛び移ろうかとしたが、それでは罰が当たりそうだ。でも、後ろから征響が迫ってきていた。俺は、寺の大きな木を駆け下りて、地面に着地した。 「ど、どこから来た?」  木の下にいた人が、驚いて跳ね退いていた。 「すみません!」  希子が慌てて走ってきた。そこに、征響や名護、秋里と倉吉まで走り降りてきた。 「すみません!」  希子は周囲に謝ると、俺と征響の頭を殴った。 「このバカ息子。どうして、上から来るの!」  希子は怒っているが、将嗣と佳親は大笑いしている。このバカ二人の血を継いだので、上から来るなどになってしまうのだろう。 「上から来るとは思わなかったよ」  佳親が、降りてきた木を見上げていた。巨木で、葉が茂り空も見えない木であった。 「天狗だよな。天から来るところがさ」  では、一緒に来た名護は何であろう。 「全く、母さんに感謝するよ。何するのか分からない男の子を授かった。自分を見ているようで怒れない。親も苦労したなって、今になって同情する……」  マイクロバスは到着していて、相澤の車も見えた。 「で、どこを探検していたの?後で教えろ」  寺の住職も庭に出ていて、空から子供が降ってきたと参拝者に詰め寄られていた。住職が、俺を怒ろうとしたが、近寄ってくると、頭を撫ぜてくれた。 「おかえり。やっと仲間を見つけられたかな」  住職は、一人で墓参りに来る子供が気になっていたという。駅から歩いてきて、墓参りすると、再び歩いて帰る。どこかに消えてしまいそうなほどに儚かったらしい。 「兎は寂しいと死ぬからね」  又、兎であるのか。それも、俺であるのか。 「でも、崖の兎は一匹でふてぶてしく生きていましたよ」  住職がやや驚いていた。 「兎、生きていたか?」  住職の話によると、あの建屋は、漫画家のものであった。漫画家の実家がこの近くにあり、あの崖の持ち主でもあった。 「保護区ではないですか?」 「よく知っているね。保護区だけど、個人の持ち物だからね」  住職とは旧知の仲で、締切に追われると寺にも逃げ込んでいた。寺にも行事があり、年中は逃げ込めない。そこで、あの部屋を作ったのだ。  菜園も造ったが、全く育てられず、雑草ばかりになったので、兎を飼ったという。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加